2023/05/01 00:00
糸のダイヤモンド
「糸のダイヤモンド」といわれるやまこの緑の絹糸。
やまこの糸の緑は、人工的な染色では出せない天然の緑色。自然の草木染でも、緑色は染められない貴重な色。
ですが、この緑色は生糸の精錬時に流れ出てしまいます。しかし、その代わり、糸は淡い萌黄色となり、いっそうの艶と輝きを増し、よりしなやかさを強め、格別な美しさを得られるのです。
染色ではだせないやまこ特有の自然の緑の色を残しながら、極上の艶やかな光沢を引き出す。
このふたつの特性をバランスよく引き出して、美しい糸に仕上げるためには、長年に培われた経験と勘、技が必要です。繭の原石は確かな技術で磨かれて、「糸のダイヤモンド」となるのです。

一粒からほんのわずか
一粒の繭からとれる生糸は、わずかに0.2~0.3g。
絹糸を効率よくとれるように長年にわたり改良されてきた家蚕(かさん)に比べると、とれる長さは約半量。
野生の繭ゆえに、糸がひきにくく、辛抱強さが求められる大変に手がかかる仕事です。
今では、やまこの繭から糸をひける技術を持った人も少なくなりました。

あますところなく糸にする
繭の緑は、表面が一番濃く、内側に行くに従い淡い黄色から白色になっていきます。
これは、太陽を良く浴びたところが緑色になるためです。
しかし、滑らかなまっすぐな生糸をひくためには、この表皮の部分はほどき取らなければなりません。使い物にはならないけれど、やまこの緑の色味が美しいこの部分も捨てずに、丹念に手をかけて、大切に糸にしていきます。手をかければ、緑が美しい味わいのある紡ぎ糸になるのです。
また、生糸をとった後の繭の一番内側の部分も、真綿状にして糸を紡ぎます。これらを生皮苧糸(きびそいと)と呼んでいます。
貴重な一粒の繭をあますところなく、大切に糸にしようとする昔ながらの知恵。
気の遠くなるほどの手をかけられて、糸ができあがるのです。

糸の表情さまざま
また、繭の緑の色味を残すために、繭から糸を直接手で引き出しながら糸をひく、「ずりだし」という技法を用いて、手紡ぎ糸もひいています。
「ずりだし」糸は、なめらかで優美な生糸とはまた違った魅力のある、素朴な深い味わいのある糸になります。繭の緑色が、色濃く残るのもこの糸です。
帛紗やストールは、繊細な生糸を。しおりは色のグラデーションを楽しむためにずりだし糸を。
YAMAKO_PROJECTでは、織り上がりの美しさを考えて、太さや色味、表情の異なる数種類の糸を組み合わせたり、使い分けたりして作品をつくります。
まさに1本の糸からモノ作りがはじまるのです。

何拍子もそろった糸の特性
やまこの繭からひいた糸が優れているのは、その美しさだけではありません。
科学的にも、優れた繊維であることが解明されています。
やまこの糸の断面図は、ご覧のようにたくさんの小さな気泡があります。
このたくさんの気泡が空気を抱き込み、着てふわりと軽く、温かく、そして保湿放湿にも優れた大変に快適なシルク素材となるのです。
また紫外線を防ぐUV効果も高く、静菌性に優れていることもわかってきました。
糸の伸度も、家蚕の絹糸の約20倍。しなやかなのに強靭さも兼ね備えています。
美しくばかりではなく、着心地の良い快適なやまこの織物、身に纏ってみたくなりませんか?